グロスアップ計算とは従業員に保証する「手取り額」から逆算して、税金や社会保険料を含んだ「総支給額」を割り出すための計算方法です。
通常の給与計算では、会社が決定した総支給額から源泉徴収税や社会保険料を天引き(控除)して、従業員に差引支給額(手取り額)を支払います。この場合、税額や社会保険料は総支給額を基に算出されるため、計算は比較的シンプルです。
しかし、「毎月50万円の手取りを保証する」といった「手取契約」を結んだ場合は、話が別です。手取り額を起点として、そこから総支給額や控除額を逆算する必要があり、この複雑な計算がグロスアップ計算と呼ばれています。
この際に用いるのがグロスアップ計算です。ここでは手取契約をしてグロスアップ計算をする事例とやり方をわかりやすく解説します。
目次


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1.手取契約の活用事例
手取り額を保証する「手取契約」は、主に以下のような場面で活用されています。
福利厚生の一環として
従業員にとって、毎月の手取り収入が変動しないことは大きな安心材料となります。特に専門職の採用などにおいて、魅力的な福利厚生として手取り額保証を導入する企業があります。
海外への出向者
海外勤務で得た給与には、日本の所得税ではなく、現地の税法が適用されます。アメリカなど、日本より税率が高い国へ出向した際に、従業員の手取り額が減ってしまうことを防ぐ目的で利用されます。
外国籍の従業員を雇用する場合
所得税の仕組みは国によって大きく異なるため、外国籍の従業員が自ら正確に税金を納めるのは難しい場合があります。そこで、企業側が税務手続きの負担を担い、手取り額を保証することで、従業員が安心して働ける環境を整えるために活用されます。
2.グロスアップ計算のやり方
グロスアップ計算のやり方は以下の流れで進めるのが一般的です。
1.手取り額から大まかに総支給額を想定する
2.想定した金額を仮の総支給額として社会保険料を計算する
3.課税支給額から所得税を計算する
4.仮の総支給額に基づく仮の手取り額を計算する
5.目標の手取り額と仮の手取り額の差額を仮の支給額から引いて2~4を繰り返す
6.手取り額が収束したら総支給額を確定する
わかりやすく言うと、仮の総支給額を決めて手取り額を計算し、ずれがあったら新たに仮の支給額を決めて計算し直すという作業を繰り返します。
計算する度に仮の総支給額から計算した手取り額が手取契約に基づく金額に近づいていき、最終的に正しい総支給額が決まるという仕組みです。
3.グロスアップ計算の具体例
グロスアップ計算は具体的に計算してみるとわかりやすくなります。
*注意:本資料のグロスアップ計算はあくまで解説用のサンプルです。社会保険料率や税率は年度・地域・扶養状況等により変動するため、正確な計算は必ず各制度の最新基準や税額表をご参照のうえご確認ください。
ここでは以下のモデルケースでの計算方法を紹介します。
手取り額の月収47万5,000円 | |
勤務地 | 東京都 |
年齢 | 40歳未満(介護保険料の負担なし) |
扶養家族 | なし |
その他 | 住民税が標準課税で計算対象は
所得税と社会保険料のみ |
1.手取り額から大まかに総支給額を想定する
まずはキリの良い数字として、
仮の総支給額を600,000円と設定して計算を開始します。
2.想定した金額を仮の総支給額として社会保険料を計算する
令和7年度の社会保険料は以下のようになっています。
社会保険料 | 管轄 | 令和7年度 保険料率 |
---|---|---|
健康保険料 | 協会けんぽ | 9.91% (東京都) |
厚生年金保険料 | 日本年金機構 | 18.30% |
雇用保険料 | 厚生労働省 | 1.45% (一般の事業)
本人負担: 0.55% |
労災保険料 | 厚生労働省 | 0.3%程度 (リスク低い事業) |
この手数料率に基づくと本人と会社の折半についても加味すると社会保険料は以下のように計算できます。
厚生年金保険料(本人負担): 600,000円 × 18.3% ÷ 2 = 54,900円
雇用保険料(本人負担): 600,000円 × 0.55% = 3,300円
労災保険料: 0円(従業員負担なし)
この料率に基づき、本人と会社の折半についても加味して社会保険料を計算します。
3.課税支給額から所得税を計算する
社会保険料を差し引いて課税対象額を計算し、源泉徴収税額表を使って所得税額を求めます。
計算式
所得税額=31,860円
(※令和7年分 源泉徴収税額表・扶養親族0人の場合)
4.仮の総支給額に基づく仮の手取り額を計算する
仮の総支給額から社会保険料と所得税を引いて、仮の手取り額を計算します。
計算式
5.目標の手取り額と仮の手取り額の差額を仮の支給額から引いて2~4を繰り返す
仮の手取り額(480,210円)は、目標の手取り額475,000円に比べて5,210円高い状態です。
6.手取り額が収束したら総支給額を確定する
ステップ5の結果から、仮の総支給額60万円から差額の5,210円を差し引いた594,790円あたりが総支給額の着地点となります。
このように、計算を繰り返して目標額に収束した時点で総支給額が確定します。
今回のケースでは、手取り額475,000円を保証するための総支給額は約594,790円と結論づけることができます。
4.まとめ
グロスアップ計算は手取り額で給与を決める手取契約をするときに必要になる計算です。
やり方は機械的にできますが、手作業でおこなうと莫大な労力がかかります。
手取契約は労働者にとって福利厚生にもなる対応で喜ばれますが、グロスアップ計算をする経理の負担が悩みになりがちです。
COMITHRではグロスアップ計算を自動化できるSaaSシステムの提案・導入・運用をサポートしています。給与計算アウトソーシングも承っていますのでぜひご相談ください。