HRテック(HR Tech)とは
HRテックは、人事(Human Resources)とテクノロジー(Technology)を統合した領域で、AI、クラウド、モバイル、ソーシャルメディア、データアナリティクスなどの先進技術を用いて人事業務を効率化し、人的資源の管理や分析を最適化し、人事部門の業務に技術革新をもたらすことです。これにより、採用、育成、評価などの人事プロセスに革命をもたらし、企業の人材戦略を強化します。デジタルトランスフォーメーションの進行とともに、HRテックの重要性は日々高まっており、企業における人材確保や育成の課題解決に不可欠な役割を果たしています。
HRテックの具体例には下記が挙げられます。
カテゴリ | 具体例 |
採用管理 | オンライン履歴書管理システム、AIによる書類選考ツール |
パフォーマンス管理 | 360度フィードバックシステム、目標管理(OKR)ツール |
勤怠管理 | クラウドベース勤怠打刻システム、リアルタイム勤怠追跡 |
給与計算 | 自動給与計算ソフトウェア、給与明細の電子配信 |
従業員エンゲージメント | 社内SNS、従業員認識プラットフォーム |
学習と開発 | オンライン研修プラットフォーム、スキルアップアプリ |
HRテックで活用されるツールは、従来の人事管理方法を根本的に変革し、人材活用や育成領域で広く利用されています。
HRテックの基本概念
HRテックは基本的な定義がありません。人事領域から労務関係まで、人事に関連した分野のテクノロジーを広義に総称したものがHRテックです。
HRテックの範囲は広く、採用、労務管理、福利厚生を含む多岐にわたります。企業によっては健康管理ツールやIoT技術も含まれる場合があります。
人や組織に関わる給与計算、健康管理、各種事務手続きなどもHRテックの対象といえるでしょう。
なぜHRテックは重要?
HRテックが重要な理由として下記が挙げられます。
テクノロジーの発展
テクノロジーやクラウドの進化により、HRテックのサービスをコスト効率の高い形で利用できるようになりました。
たとえば、クラウドベースのHRテックは従業員のアクセシビリティ向上に効果的です。リモートワークや分散型チームの管理を容易にしました。企業は地理的・時間的な制約なく、柔軟かつ迅速な人事プロセスを構築できるようになりました。
人事戦略の重要性
HRテックでは、従業員の採用から育成、エンゲージメント向上など人事戦略をデータ的にサポートします。
たとえば、HRテックを用いたデータ分析は、企業内の優れた従業員を見つけたり、戦略的に配置したりします。HRテックは、タレントマネジメントやエンゲージメント向上のために活用されます。
働き方の多様性
HRテックを導入することにより多様的な働き方に適応します。近年の働き方は、リモートワークやフレキシブルな労働時間など多様性を増しています。対応するためには、従来の人事管理システムでは限界があり、HRテックの導入が不可欠です。
HRテックの適用範囲
HRテックの適用範囲は、人事業務の全般に渡ります。適用範囲には下記があります。
- 人事戦略
HRテックの適用範囲は、企業の人材戦略に大きな影響を与えます。従業員の経験向上や業務プロセスの効率化に貢献します。
人事戦略の策定では、採用や教育に関する戦略を効率的に進めるために、HRテックが活用されます。人事戦略におけるHRテックの具体例には、タレントマネジメントシステムの導入や複数の採用手法の組み合わせなどが挙げられます。
- 採用とオンボーディング
HRテックは、求人媒体の選定から面接の実施、内定後のフォローアップまで行うオンボーディングプロセスをサポートするサービスがあります。オンボーディングは、新入社員、中途社員のエンゲージメントやモチベーション向上に役立つ定着プロセスを指します。
採用業務全般をサポートすることで、新入社員の定着と戦力化をスムーズに行い、優秀な人材を確保します。
- パフォーマンス管理
HRテックを使用して従業員のスキルや適性を評価することで、データを基に適材適所の人材配置ができます。適切なポジションやタスクを割り当てることで、従業員の能力を最大限に活かすことができるでしょう。
従業員は自身の能力を活かした業務に従事することができ、結果としてパフォーマンスが向上します。
- 勤怠管理
勤務体系の多様化により、勤怠情報は複雑化しています。社内だけでなくテレワークなど社外からの勤務時間の記録が必要です。フレックスや裁量労働制といった勤務体系にも対応できます。
勤怠管理ツールの活用により、社員の勤怠情報を一元的に管理し、給与計算との連携も図ることができます。
- 給与計算
給与計算には勤怠情報が必要です。クラウドソフトを利用することで勤怠管理が自動化され、データの連携がスムーズに行われます。
ソフトウェアをダウンロードする従来の給与計算ソフトと異なり、クラウドソフトを利用することで場所を選ばずに勤怠データの取得ができます。
担当者に負担をかけることなく情報を更新できるため、給与計算の精度と効率が向上するでしょう。
- 従業員エンゲージメントと福利厚生
Web会議ツールの普及により、場所を選ばずにミーティングが実施できるようになり、チャットツールの普及で、気軽にコミュニケーションが取れる環境が整いました。
従来は会社から従業員へ報酬を贈ることが一般的でしたが、HRテックを活用することでアプリ上で感謝や評価のメッセージを添えてポイントを贈り合うことができます。HRテックの活用は従業員のエンゲージメントやモチベーションの向上につながります。
- 学習と開発
HRテックは、オンライン上での学習を促進します。従来の社員教育方法では時間や場所の制約がありましたが、HRテックを活用することで、社員はいつでもどこでも質の高い研修を受けることができます。
学習データの一元的な管理により、社員の熟練度を把握することが可能になります。
HRテックの研修管理システムでは、社内外で実施される研修を効果的に管理できます。教育訓練記録や個人別教育履歴などのデータを一元管理することで、PDCAサイクル管理を含めた人材育成が簡単に行えます。
- HR分析
ビッグデータ分析とAI技術を活用することで、人事部門は従業員に関する膨大なデータから有意義な洞察を得ることが可能です。AIを用いた予測分析は、将来の人材ニーズや従業員の流動性を予測し、戦略的な採用計画や保持戦略の策定に役立つでしょう。
- 事務手続き
クラウドソフトウェアを活用することで、作業時間の短縮や業務効率の改善が可能です。
たとえば、入社手続きでは、入社に必要な情報を本人が直接ソフトウェアに入力することで担当者の負担を軽減します。管理情報はリアルタイムにアップデートされます。
HRテックを活用することで、入退社手続きなどの事務作業を効率化し、人事部門の業務全体の効率化に貢献します。
HRテックのメリット
HRテックの導入による主要なメリットは下記の通りです。
人事業務の効率化
システムやツールを活用することで、従業員情報の一元管理から採用活動、人事評価、労務業務まで広範な人事業務の効率化が可能です。
人材獲得の効率化
HRテックの導入により、採用活動に割り当てる時間を増やせます。履歴書のデータ化によって管理の手間が軽減されます。書類の紛失リスクも低減し、個人情報の漏えい対策としても効果的です。
欲しい人材の明確化
HRテックのデータを分析・活用することで、企業に適した人材の資質や経験を抽出できます。企業と応募者が欲しい人物像を明確にすることで、入社後のギャップを防ぎます。
組織力の強化
HRテックは従業員だけでなく、組織単位の管理にも効果を発揮します。客観的な人事評価に基づく適切な人材配置が可能となり、組織の成長を促進します。
離職防止
適材適所の人材配置や客観的な評価が実現されることで、従業員のエンゲージメントが向上し、離職防止につながるでしょう。HRテックには離職防止に関連する機能が組み込まれていることが一般的です。
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HRテックの主要な技術とツール
人工知能(AI)と機械学習の活用
AI技術は機械学習を通じてデータを学習し、解析結果を出力します。人事業務におけるAIや機械学習の活用事例には下記が挙げられます。
- スキル推定
- 企業分析
- 退職予測
- キャリア予測
- 人事情報管理
AI技術の発展には基礎データの整備や学習期間が欠かせず、HRテック分野においてはまだ発展途上と言えます。
クラウドサービスとSaaSの利点
SaaSはクラウド上にサーバーを構築し、ソフトウェアを利用する形態です。HRテックにおいても、SaaSによる効率的な人事業務が可能となりました。
HRテックにおいてSaaSが効果を発揮する領域には下記が挙げられます。
- 情報共有の円滑化
- アンケート機能の活用
- 従業員のパフォーマンス分析
クラウドサービスとSaaSの導入により、企業は業務プロセスの効率化や従業員の満足度向上の促進を実現しています。
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LMS(学習管理システム)とeラーニング
学習管理システムとeラーニングは従業員のスキル向上や教育に貢献します。オンラインでの学習やトレーニングが柔軟に行え、従業員の成長と企業の競争力向上に寄与します。
LMSとeラーニングの違いは下記の通りです。
LMS(学習管理システム) | ・eラーニングなどの実施に必要な学習教材の配信や、人事部門が企画する人材育成プログラムのデータ管理
・オンプレミス型とクラウド型の2種類 |
eラーニング | CDやDVD、インターネットを通じて提供される学習コンテンツ教材や学習方法 |
LMSは従業員ごとの進捗データや成績、オフラインの研修に関する情報も統合的に管理できます。
ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)
RPAはソフトウェア・ロボットが事務作業を代行し、人事業務の効率化を図ります。給与計算やデータ入力作業など、ルーチンワークを効果的に処理し、生産性向上に寄与しています。
2021年1月時点の導入率は、大・中規模企業では約37%、中・小規模企業でも10%に達しており、導入の動きが拡大しています。
人事管理領域では、採用活動における応募者への連絡や試験の採点など、人事情報の管理の自動化、採用活動の効率化に活用されます。
労務管理領域では、勤怠管理や給与計算、通勤手当申請などの労務業務もRPAによって自動化されています。
出典:RPA導入企業が活用を本格化、AI-OCR導入も約2割 | 株式会社MM総研
ピープルアナリティクスによるデータ駆動型人事
データドリブンを活用した分析・情報活用を「ピープルアナリティクス(People Analytics)」と呼びます。
データドリブンとは、データ分析結果を元に、課題解決に向けたアクション立案・実行・意思決定を行う業務プロセスです。
これまでの人事領域では経験や勘に頼ってきましたが、データに基づくアプローチが導入され、組織内のさまざまなデータが活用されるようになりました。
モバイルHRアプリケーション
モバイルHRは、スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスを利用して、人事管理業務を行うプラクティスを指します。
従業員や管理者は場所を問わずに下記の機能にアクセスできます。
- タイムシートの確認
- 有給休暇の申請
- パフォーマンス評価
- 研修の受講
モバイルHRはリアルタイムで情報を共有することが可能なため、企業は従業員エンゲージメントを向上させ、人事管理の効率を高めることができるでしょう。
HRテックの効果的な導入戦略
HR[テックを効果的に導入するステップは下記のとおりです。
導入前の準備:業務プロセスの分析
業務の棚卸し
HRテックの導入前に、人事部門が担当する業務の全体像を把握する必要があります。従業員情報管理から給与計算、採用プロセスまで、すべての業務が対象です。
業務の棚卸しをすることにより、HRテックの適用が最も必要とされる領域を特定できます。必要とされる領域とは、採用プロセスやパフォーマンス評価などHRテックの恩恵を受ける可能性が高い領域です。
テクノロジーで代替できる業務を仕分けする
業務の棚卸しを行った後は、テクノロジーによって代替や効率化される業務を仕分けます。
たとえば、
- 手作業によるデータ入力
- 複雑なスプレッドシートの管理
- 定期的な報告書の作成
などは、自動化によって時間を節約できる業務候補です。
テクノロジー選定:目的に合致したツールの選択
業務の棚卸しを行い、代替できる業務を選定したあとは目的に合致したツールの選択をします。たとえば、採用プロセスやパフォーマンス評価など、データ分析が必要な業務に特化したツールを選択します。
データ分析や採用プロセスなどの業務には、ワークフローシステムやレポート作成ツールなどが適しています。戦略的な意思決定を支援するためには、採用管理システムやパフォーマンス管理ツールが役立つでしょう。
プロジェクト管理:段階的な導入と評価
HRテックの導入は段階的に進めることが効果的です。最初に必要な機能や部門を選択し、導入して効果を検証します。
その後、段階的に他の部門や機能を追加していくことで、リスクを最小限に抑えながら効果的な導入を実現します。
たとえば、最初の段階で給与計算システムの導入を行い、効果を評価します。定期的なフィードバックセッションやアンケートを通じて、従業員の意見を収集し、システムやプロセスを改善します。
運用と改善:検証と改善の実施
HRテックの導入後は、定期的な検証と改善が重要です。問題点や改善の余地を見つけ、適切な対策を講じることで、システムの効果を最大化できます。
HRテックの運用後は、1年未満の短いスパンで効果を検証することで、システムの利用状況や効果を把握し、改善の方針を立てることができます。
運用中に使いづらい点や問題が浮上した場合、問題点を早期に発見し、改善策を検討します。
HRテックを活用した人事業務の変革
HRテックを活用した人事業務の変革には、下記が挙げられます。
採用プロセスの最適化
HRテックを活用した採用プロセスの最適化は、効率的で迅速な人材獲得を可能にし、企業の競争力向上に貢献します。
たとえば、AIを活用したエントリーシートの選定や、AI面接官の導入により、採用プロセスの一部が自動化され作業効率が向上するでしょう。
また、クラウド型Webサービスの活用により、入退社手続きや雇用契約書の締結など、採用に関わるさまざまな事務処理が効率的に行えるようになりました。
採用プロセスの最適化により、効率的な人材獲得が可能となります。企業は貴重な時間をより戦略的な課題に充てることができるでしょう。
従業員のパフォーマンスとエンゲージメントの向上
労務管理システムの導入により、従業員のパフォーマンスとエンゲージメントを向上が可能です。
効率的な業務管理
労務管理システムは、入社から退職までの手続きや勤怠管理を効率化し、従業員の業務時間や休暇の取得状況を正確に把握できます。
働きやすい環境の提供
正確な勤怠管理や休暇取得の促進は、従業員にとって働きやすい環境を提供します。従業員の満足度とモチベーションが向上し、エンゲージメント向上につながるでしょう。
組織全体のエンゲージメント向上
働きやすい環境を実現することで、組織全体のエンゲージメントも向上します。従業員がより満足度の高い状態で働くことができれば、組織の生産性や業績向上につながります。
法規準拠とリスク管理
HRテックを活用することで、法令遵守が徹底されます。人事評価の過程で必要な情報や規則をシステム上で管理することで、法的要件に沿った運用が行われます。
たとえば、人事評価システムを使用することで、従業員の評価プロセスが透明化され、評価結果が公平かつ客観的になります。システムが法令に基づいた規定を遵守することで、労働法や個人情報保護法などの法的要件を適切に管理できます。
HRテックの成功事例
COMIT HRによるSAPからジョブカン(SaaS)への移行事例をご紹介します。
SAPからジョブカン(SaaS)移行
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業種 | 外資系自動車部品メーカー様 |
従業員数 | 800名 |
移行における導入背景から成果までは下記のとおりです。
背景 | ● SAPの継続利用が困難
● 追加費用やコスト削減の必要性 |
課題 | ● SAPの複雑な設定によるリプレイスのハードル
● 適合するシステムの不明確さ ● 時代遅れの勤怠システム ● および給与計算業務の負担 |
移行内容 | ● SAPからジョブカンへの移行
● フルアウトソーシングによるシステムの一元化 |
移行方法 | ● 現実の運用状況とSAPのギャップを分析し、必要な項目のみ移行
● 不足部分はツール開発により補完 |
成果 | ● 短期間かつ低コストでの移行実現
● システム変更時間の短縮 ● ペーパーレス化の達成 |
システム移行プロセス
SAPからジョブカンへの移行は下記5つのステップで行われます。
STEP1. 要件定義・分析 | 給与関連の項目400以上のうち、半分以上が現在利用されていないことが判明。必要な項目に対してFIT&GAPを行い、移行方針を確定。 |
STEP2. 基本設計 | 項目のFIT&GAPを実施し、移行できない部分についてBPOでの対応案を提示。 |
STEP3. テスト | SAPとジョブカンの給与計算を7ヶ月照合し、不一致が生じた場合は原因追及と対応を実施。 |
STEP4. 運用構築 | ジョブカンの特性に合わせてツールを追加開発し、運用性を向上させる。 |
STEP5. 並行稼働 | 並行稼働では現行委託先のスケジュールをベースに検証を行い、課題の解決に努める。 |
結果 | COMIT HRの導入により、短期間かつ低コストでの移行が実現し、人事業務のペーパーレス化や賞与計算の効率化が促進されました。 |
COMIT HRでは、ジョブカンとjinjerなど提携する5つの人事SaaSを通常より割安な単価で提供しています。人事SaaSだけでは解決できない課題は、BPOと組み合わせることで、人事BPOサービスとして課題解決をお手伝いいたします。
ご質問やご相談など何でもお気軽にお問い合わせください。
まとめ HRテックを取り巻く今後のトレンド
HRテックは急速に成長しており、2022年度の国内市場規模は前年比134.4%増の785.6億円となっています。
市場規模と成長率の上昇
デロイドトーマツミック経済研究所の調査によると、HRテック市場は急速な成長を遂げており、2022年度には前年比134.4%増の785.6億円に達しています。
企業がデジタル化による業務効率向上や人材管理の最適化に注力している結果といえるでしょう。
人事労務管理クラウド市場の拡大
特に人事労務管理クラウド市場は大きく伸張しており、タレントマネジメントシステムの需要拡大や複数製品の導入が影響しています。
企業が従業員の生産性向上や働き方改革に焦点を当て、効果的な人事労務管理が求められていることを示しています。
最新の「HRTechクラウド市場の実態と展望」によれば、2023年度までにHRテック市場は継続的に拡大し、特にクラウド市場の拡大が予想されています。トレンドが加速する要因は、タレントマネジメントシステムの需要増加や多様な製品の導入が挙げられます。
HRテックは今後も拡大し、企業がデジタル化と人材戦略に注力する中で、市場の成長が続くでしょう。
出典:「HRTechクラウド市場の実態と展望 2022年度版」